インタビュー
2025/11/04
「AIオンデマンドバス『のるーと』で、交通空白地帯に新しい選択肢を」ネクスト・モビリティ日髙氏インタビュー

高齢化や運転手不足が進む中、日本各地で「交通空白地帯」が広がっています。こうした課題に対し、AIオンデマンドバス『のるーと』を展開するネクスト・モビリティ社は、地域の移動手段を再構築する取り組みを進めています。今回は、代表取締役社長の日髙氏に、事業の背景や導入効果、そして今後の展望について伺いました。
目次
AIオンデマンドバス『のるーと』の始まり
課題の出発点は「運転手不足」と「複雑化する輸送ニーズ」
「2017年当時、運転手不足が深刻化する一方で、高齢者の免許返納や通学支援など、より細やかな輸送ニーズが増えていました」と語る日髙氏。新規事業戦略担当として、地域交通の持続可能性に強い危機感を抱いていたといいます。
そんな中、ネクスト・モビリティ社の共同出資社である三菱商事が、欧米で注目されていた「CASE(コネクテッド・自動化・シェアリング・電動化)」という次世代モビリティの潮流を紹介。地域交通の課題解決に活かせると考え、グローバルネットワークを活用し、柔軟なオンデマンド交通システムを提供するカナダのベンチャー企業「Spare Labs社」との連携が始まりました。
「複雑な日本の交通事情に柔軟に対応できる企業として、Spare Labs社を選定しました。当時は社員9名のスタートアップでしたが、技術力と姿勢に期待しました。」
交通空白地帯の拡大と地域への影響
日髙氏は、交通空白地帯の拡大が地域の活力に直結する問題だと指摘します。
「高齢者の健康、子どもの通学方法など、地域の移動手段が失われることで、生活そのものが不安定になります。担い手がいないという現実が、地域の未来を左右しているのです。」
国土交通省・九州運輸局とも連携し、法制度やガイドラインの確認と活用を進めながら、事業の立ち上げを支援してもらったといいます。
利用促進と各地への広がり
『のるーと』の仕組みと利用者目線の工夫
『のるーと』は、AIを活用したオンデマンド型のバスサービス。利用者はスマートフォンやタブレット、電話などで予約し、AIが効率的なルートを自動で計算して配車します。
「LINE連携により、利用者数が一定の目標数に達するまでの時間が半分になった感覚があります。電話予約にもAI応答を導入予定で、誰でも使いやすい仕組みを目指しています。」
利用者にとっての利便性を高めるため、日髙氏は以下の4つの要素を重視しています:
- AIによる正確で効率的な配車
 - 予約のしやすさ・分かりやすさ
 - 車両の魅力(バリアフリー・安全性)
 - 運転手の接遇
 
導入地域の広がりと成果
現在『のるーと』は全国60か所以上に導入されており、都市部から中山間地域まで広がっています。離島からも導入の問い合わせがあるようです。
「福岡県宗像市では、平日2台体制で1日200人以上のお客さまにご利用いただいています。地域定着のためには、スマホ講習会や乗車体験会などの取り組みも欠かせません。宗像市では、循環バスから『のるーと』への切り替えに伴い、市と地域のNPO法人が中心となり東郷駅近くのコミュニティスペースを活用してアプリ教室が開催され、アプリ利用率は80%を越えました。」
「YEデジタル社の車載サイネージも、地域スポンサーとの絆づくりに貢献しています。今ではなくてはならない存在です。」
利用者の声と継続的な改善
『のるーと』では、アプリを通じて利用者からのフィードバックを収集。登録者数や1台あたりの輸送力、運転手の声などをKPIとして設定し、サービスの改善に活かしています。
「AI精度や運賃設定によって利用状況は変動します。だからこそ、現場の声を丁寧に拾いながら、柔軟に対応することが大切です。」
今後の展望とメッセージ
最後に——持続可能な公共交通を目指して
「運転手不足という大きな課題を乗り越え、地域に根ざした持続可能な公共交通を創っていきたい。それが私たちの使命です」と語る日髙氏。
『のるーと』がもたらす新しい移動のかたちが、交通空白地帯に希望の道を拓いています。
◇プロフィール
日髙 悟 (ひだか さとる)
西日本鉄道株式会社 自動車事業本部 未来モビリティ部 部長 兼
ネクスト・モビリティ株式会社 代表取締役社長
【略歴】
1995年 関西大学社会学部 卒業
西日本鉄道株式会社 入社
・バス事業、広報・経営企画等業務に従事
2017年 自動車事業本部 計画部 新規事業戦略担当課長
・AIオンデマンド交通、MaaS、自動運転バス等のサービス開発に従事
2023年 現職
