インタビュー
2025/09/12
地域公共交通計画のアップデートガイダンス策定に込めた想い~みちのりホールディングス 浅井さんに聞く、現場目線で描く持続可能な交通の未来~

地域公共交通のあり方が問われる中、国が策定を進める「地域公共交通計画のアップデートガイダンス」に、委員として民間事業者の立場で参画しているのが、みちのりホールディングスの浅井様です。バス交通の現場に精通する浅井様に、ガイダンス策定に関わった背景や込めた想い、今後の展望について伺いました。
目次
地域公共交通計画アップデートガイダンスについて
地域公共交通計画のアップデートガイダンス策定に関わることになった背景を教えてください。
浅井さん: 私はみちのりHDに在籍しており、バス交通に対する現場目線でデジタル技術活用を活用する専門性を期待され、委員としてお声掛けいただきました。交通計画を実行性のあるものにするためにはデジタル技術の活用が必要であり、特に実務面で直面する課題を意識し、活用のための視点で意見を伝えました。
今回のアップデートガイダンスの中で特に重要なポイントは何でしょうか?
浅井さん: デジタル技術の活用、地域特性への対応、持続可能性の確保の3点が重要です。テクノロジーを活用すれば、例えば複雑な需要パターンをデータ分析から見つけ出し、各地域の特性やニーズに応じた柔軟な計画を策定できます。さらに一回だけの取り組みにせず、長期的に維持可能な仕組みとして構築することも重要です。こうした視点を意識したガイドラインになっていることが、従来の地域公共交通計画を作成することとの違いであり、重要なポイントと考えています。
ガイダンスにはどのような思想や価値観が込められているのでしょうか?
浅井さん: 個人的にはガイダンスを通して、「地域に寄り添う」という想い、つまり地域住民の実際のニーズに応えることに役立てばと思っています。計画に地域の声を反映し、実践的で効果的な施策を推進するために、ニーズに真摯に向き合う姿勢が何より大事であり、それを実現するための方法がガイダンスから感じてもらえればと思っています。
地域公共交通計画アップデートに必要な観点と課題
交通空白地域の問題について教えてください。
浅井さん: 「交通空白地域の問題」は、アップデートガイダンスにおいて非常に重要な視点として議論されました。移動需要の少ない地域では新しい技術、例えばデマンド交通などの新技術の活用で、これまでよりも効率的に運行できることが期待できます。ただ需要が少ないからこそ、地域住民の声や生活実態をデータから分析し、施策に反映させることが重要だと考えています。あとは自治体がどのように対応したいか、その意向を重視しながら進めることが必要です。
モビリティデータの活用について教えてください。
浅井さん: データを活用することで感覚的な議論ではなく「データに基づく議論が関係者間の合意形成に大きく貢献」していくと考えています。またデータに基づくアプローチ(EBPM:Evidence-Based Policy Making)は、より効果的な施策の実施と評価を可能にすると思います。
地域交通における受益者負担と税金補填についての考えをお聞かせください。
浅井さん: 日本の地域交通では、交通事業者が運行の結果発生する赤字を行政が補填するやり方ですが、世界的では日本だけが採用しています。公共交通における受益者は直接利用している人だけでなく、車が使われないことで渋滞が抑制されたり、外出することで健康に過ごし、医療費が抑制されたり、様々な社会的な便益があります。社会的なコストとして公共交通の運営に税を投入することは、こうした広い目線での議論が必要だと考えています。
今後の展望とメッセージ
最後に、今後の展望とメッセージをお願いします。
浅井さん: このガイダンスが活用され、地域公共交通を深く検討する新たなきっかけとなることを、強く期待しています。
現在、成功事例などをポータルサイトで広く共有することで、各自治体間での知見の共有や、活発な議論を促す仕組みづくりも進められていると聞きます。
それぞれの地域でより良い公共交通システムを構築するために、「魂を込めて、地域のために実践的かつ持続可能な計画」を、ぜひ作り上げていただきたい――その想いを、すべての交通担当者・事業者・関係者の皆様に届けたいと考えています。
◇プロフィール
浅井 康太 (あさい こうた)
株式会社みちのりホールディングス グループディレクター
【略歴】
2009年 京都大学院工学研究科合成生物科学専攻 卒業
2009年 株式会社日本総合研究所 創発戦略センター 入社
‐環境・エネルギー・モビリティ領域のリサーチ、新規事業支援業務に従事
‐自動運転のコンソーシアムの立ち上げ業務に従事
2015年 WILLER ALLIANCE株式会社入社
‐社長室にて新規事業企画を担当
‐WILLER EXPRESS株式会社 安全推進室長を兼務
2017年 株式会社みちのりホールディングス入社
‐グループ全体のDX/GX領域の推進を統括