インタビュー
2025/12/01
「地域らしさ」と共に進化するまちへ -NECスマートシティ統括部・平尾氏が語る都市OSの可能性-

スマートシティという言葉が広がる中、都市の在り方は大きな転換期を迎えている。NECが推進する「都市OS」は、ICTを活用して地域の課題を解決し、住民の生活の質を向上させるための基盤として注目を集めている。今回は、NECスマートシティ統括部の平尾氏に、都市OSの将来展望や実装事例、そしてスマートバス停との連携による新たな価値創出について伺った。
目次
地域の「らしさ」を活かす都市OSの未来像
NECのスマートシティビジョン
NECが掲げるスマートシティのビジョンは、「世界に誇れる『地域らしい』まちの進化」。これは、地域固有の文化や風土を尊重しながら、新しい価値を融合させ、人々が活き活きと暮らし続けられるまちを目指すというものだ。
平尾氏は「スマートシティの本質は、テクノロジーの導入そのものではなく、地域の課題に寄り添い、住民のQOL(生活の質)を高めることにあります」と語る。都市OSはそのための基盤であり、地域の特性に合わせた課題解決、地域経済の好循環をICTの力で支える役割を担っている。
FIWAREがもたらす柔軟な都市づくり
NECでは、FIWAREを都市OSの中核技術として採用している。FIWAREはオープンソースの部品提供型プラットフォームであり、標準化されたAPIとデータモデルを通じて、さまざまなサービスやデータを柔軟につなぐことができる。動的データの扱いに優れており、IoT志向の都市づくりに適している点も大きな強みだ。
「FIWAREの特徴は、つながる・ながれる・続けられるという3つの要素を実現できることです。多様な企業や自治体が連携し、共創によってまちが進化する未来に期待しています」と平尾氏は語る。
また、都市OSはクラウドベースで提供されるため、マルチクラウド対応や地域間連携にも柔軟に対応できる。災害や交通など、自治体単位では対応しきれない広域課題に対して、データ連携を通じた解決策を提示できる可能性がある。
実装事例が示す都市OSの成果と課題
熊谷市・高松市の実装事例
都市OSの実装はすでに複数の地域で進んでおり、具体的な成果も現れ始めている。熊谷市では、FIWAREとPDS(パーソナルデータ基盤)を連携させたサービスをLINE上で提供。イベント情報や電子通貨、バス回数券などの機能を通じて、登録者数は2022年の5,000人から、2023年には5万人へと急増した。謎解きスタンプラリーの参加者も5倍に増加し、市民への浸透とEBPM(エビデンスに基づく政策立案)の実現が進んでいる。
高松市では、防災情報の一元化と可視化を目的に、都市OSを活用した仕組みを構築。水路の水位、潮位、アンダーパスの浸水状況、道路の稼働状況、雨雲の動き、避難所の通電状況などをリアルタイムで一画面に表示することで、迅速な対応と情報共有が可能となった。これにより、冠水エリアの把握や避難所の使用可否の確認、交通事業者への通知などがスムーズに行えるようになった。
都市OSの課題:データ連携とカバナンス
一方で、都市OSの課題も明らかになっている。平尾氏は「都市OSはデータがつながり、流れることで力を発揮しますが、データの発信と利用が活発でなければ機能しません」と指摘する。データ発信側と利用側がn:nの関係になることで基盤の能力が最大限に発揮されるが、現状ではそのような状況はまだ稀だという。
また、既存サービスとの接続には改修コストがかかり、データ利用に関するガバナンスの合意形成も必要となるため、導入には慎重な調整が求められる。
スマートバス停との連携が生む新たな市民サービス
バス停を「まちの接点」に変える情報発信
都市OSとスマートバス停の連携は、市民サービスの向上に大きな可能性を秘めている。バス停に設置されたセンサーから得られる情報を都市OSで集約・分析することで、天気予報や二次交通情報、災害時の避難指示などをリアルタイムで発信できるようになる。
「バス停はまちの接点です。そこに都市OSのアウトプット機能を実装することで、利用者にとって有益な情報を届けることができます」と平尾氏は語る。都心部では、複数の公共交通機関の運行情報を一画面で表示することで、利用者の利便性が飛躍的に向上する。米国シアトルでは、交通局がすべての公共交通情報をサイネージに集約し、利便性を高めているという。
また、スマートバス停で収集された乗降者数や混雑状況などのデータは、時系列で分析することで、イベントの影響や運行計画の最適化に活用できる。高齢者や観光客への配慮としては、多言語対応や音声案内、フォントサイズの調整など、生成AIを活用した柔軟なアウトプットが期待されている。
地方創生と持続可能なパートナーシップ
NECが目指す新たなまちづくり
NECが目指すスマートシティは、地方創生や働き方改革にも貢献する。「地域らしさ」を活かしたまちづくりは、住民の暮らしを豊かにし、地域経済を活性化させる力を持つ。
交通インフラとの連携においては、主従関係ではない「三方一両得」のパートナーシップが重要だと平尾氏は語る。すべての関係者が利益を得る関係性を築くことで、サービスの持続性が保たれる。
今後は交通分野に加え、福祉や防災領域にも注力していく方針だ。大規模災害時には「自助」「共助」が鍵となるため、都市OSを活用して生活者を支える仕組みを整えていくという。
都市OSは、まちの情報をつなぎ、人々の暮らしを支える「見えないインフラ」。NECが描く未来のまちづくりは、地域の声に耳を傾けながら、技術と共創によって進化を続けている。その歩みは、静かに、しかし確実に、次の時代のまちを形づくっている。
◇プロフィール
平尾 啓二 (ひらお けいじ)
日本電気株式会社 スマートシティ統括部 ディレクター(営業統括責任者)
【略歴】
2002年 3月 長崎大学 経済学部 卒業
4月 日本電気株式会社 入社
6月 静岡支社勤務
2007年 4月 北九州支店勤務
2015年 4月 北九州支店長
2018年 4月 九州支社官公第一営業部長
公共ソリューション営業部長
スマートインフラ営業部長
医療ソリューション営業部長
2020年 4月 九州支社副支社長
2023年 4月 スマートシティ統括部 ディレクター
※官公庁、自治体、医療マーケットを中心に幅広い分野の営業業務に従事。
現在全国のスマートシティ領域の営業業務を統括する。
